| 研 究 内 容 |
| 我々の研究室では、ポジトロン断層撮影法(PET)による分子イメージング技術の開発を主なテーマとして研究を進めています。当センター(CYRIC)に設置されたサイクロトロンを利用して種々の放射性核種が製造可能ですが、これらを医学診断を含むライフサイエンス分野全般の研究に利用するがセンターの大きな目標です。本研究室では、特にポジトロン放出核種による新しい分子イメージングプローブ(標識化合物または放射性薬剤)の開発と評価を重要なテーマとして取り上げています。 |
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| 1. | サイクロトロンを用いる放射性核種製造技術の開発 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| A) | ポジトロン放出核種(11C, 18F)の効率的大量製造法の開発
サイクロトロンを用いて放射性核種を製造する上でいくつかの技術的問題が存在します。
PET用放射性核種(以下PET核種)の製造には、専用の小型サイクロトロン(HM12 Cyprisサイクロトロン)から得られる30-50 mAのビーム電流で照射します。CYRICでは、930型サイクロトロンで負イオン加速を行い数百mAのビーム照射を可能にする計画があります。この大電流ビームを利用することで、短時間照射でPET核種製大量製造が実現します。しかし、照射技術的には未知の世界で、ターゲットの融解や蒸発など解決しなければならいない問題が多く存在します。 |
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| B) |
高比放射能ポジトロン放出核種(11C, 18F)の製造法の開発 PET診断に利用される放射性核種である11C、13N、15O、18Fの特徴として 、
を挙げることができます。これらの中で、無担体(carrier-free)は無理でも物質量としては極微量で強い放射能量(高比放射能)を有する特徴は、人体に投与する放射性薬剤の備えるべき第一の要件に合致します。特に脳の高次機能検査であるレセプターマッピングには高い比放射能を有する放射性薬剤が要求されます。現在、11Cと18Fで標識された多くの放射性レセプターリガンドが開発され診断目的で利用されています。しかし実際には、製造されて得られるこれらの核種の比放射能は理論的な無担体のものと比べはるかに低いものです。これは、その製造や標識合成過程で安定核種が混入していることを示しています。この混入をできるだけ防ぎ、本来の特徴である高比放射能を持つ11Cと18Fを製造する方法を開発することは、分子イメージングプローブとしての放射性薬剤に大きな価値をもたらします。 |
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PET診断に使用される代表的な放射性核種
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| 2. | 分子イメージングプローブの開発 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 新規PET用プローブの開発と実際の臨床診断への応用は、化学、工学、薬学、医学の専門研究者が協力する必要がある学際的研究分野です。CYRICは、学内共同利用研究施設としてこのような共同研究を行うのに最適な環境を備えています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| A) | 標識前駆体の開発と利用
ターゲットと共に回収されてくるPET用核種を標識合成に利用する方法としては、
の2通りのアプローチがあります。前者は合成工程が少なく迅速に標識合成ができますが、目的とする化合物を得るための出発物を新たに開発する必要があります。後者は、工程は多くなりますが、汎用的な中間体を開発しその標識合成法を規格化することで適用可能な標識化合物の種類を単純に拡大できる利点があります。どちらのアプローチを採用するかは、目的とする化合物の構造と標識位置を考慮して選択されます。本研究室では後者の研究に主に取り組んでいます。以下に代表的な標識前駆体を示します。
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| B) | 新しい標識化合物の開発
新しい有用な診断薬の開発は、PET用分子イメージング研究の中で最も重要な課題です。現在世界の主要なPET関連研究施設では、種々の新しいプローブ(標識化合物)が開発されその有用性が評価されています。この分野の競争は大変激しいものがあり、製薬会社との連携が欠かせません。この世界的な競争に伍して行くには、目標を絞って開発を進める必要があると考えます。本研究室では腫瘍とレセプターのイメージング剤の開発を進めています。また最近ではアルツハイマー病診断プローブの開発にも参加しています(最近の成果については発表論文を参照してください)。 以下にCYRICで実際の診断に利用されているPET薬剤を示します。 |
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腫瘍イメージング剤([11C]メチオニンと[18F]FDG)
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ヒスタミンH1リガンド([11C]Doxepin)![]() |
ドーパミンD2リガンド([11C]Raclopride)![]() |
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アセチルコリンエステラーゼ阻害剤([11C]Donepezil)
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低酸素細胞イメージング剤([18F]FRP-170)
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| C) | 自動標識合成装置の開発
PET薬剤の合成には、その寿命が短いため大量の出発放射能と迅速な化学処理が必要となります。この要求を満たすため標識合成の自動化が必然となります。迅速で効率的な自動合成装置はルーチンなPET診断に必要不可欠な存在です。 自動合成は、標識合成の反応・精製ステップに応じて少量の反応液を化学の基本操作である、移送、加熱、留去、攪拌、添加、混合、等を連続的に行うことから成り立っています。これらの操作を自動的に行うため、例えば液体は細いプラスチックチューブ(テフロンやPEEK)を通して不活性気体のN2やHeで圧力をかけて移送します。またその制御には電磁弁を使用します。合成操作全体の制御はPLC(プログラマブルロジックコントローラ)やPC(パーソナルコンピュータ)で行いますが 、合成装置には放射能、温度、圧力、流量、光等のセンサーを配して、その情報に基づく柔軟な制御プログラムを開発することが必要です。 一般に最初に開発・報告される標識合成法は、手動の遠隔的な化学操作に基づいています。この標識合成法をそのまま自動化する方法としては、ロボットハンドを使用して単純に手動操作を真似る方法があります。一方、電磁弁とチューブを組み合わせて自動化するオンライン的な方法では、手動操作をそのまま自動化すると大変複雑な装置となってしまう場合があります。従って 、標識合成を自動化するにあたり、まず自動化に適するように合成操作を変更する必要があります。すなわち、自動合成装置の開発にとって合成操作の簡便化が大変重要な要因となります。このためには、標識合成の化学的意味を理解し、加えて工学的観点から自動化を考えることが必要です。本研究室では、合成操作の簡便化が最も重要であるとの観点に立ち 、各種のPET薬剤の自動合成装置の開発を進めています。
[11C]CO2から[11C]ヨウ化メチル(左)を経て[11C]ドキセピン(右)を調製する自動合成装置 |
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| D) | 超小型合成装置の開発
大量の放射能を使用するPET薬剤の合成は 、放射能を完全に遮蔽し、万が一の放射能漏れ事故に対しても作業者への内部被曝が生じないよう空気の流れを制御したホットセル内で行われます。最近ではこれに加え、人体に投与する注射薬の製造を行うとの理由で、PET薬剤合成に対しても厳しい作業環境基準が要求されるようになっています。従って、これらの条件を満たすホットセルは当然非常に高価なもとなり 、その限られたセル内の空間を有効利用することが強く望まれます。しかし、上の写真からも明らかなように、従来の自動合成装置は必要以上に大きな空間を閉め、一種類のPET薬剤を合成する装置類だけでホットセル内をほぼ占拠してしまいます。 現在、環境問題の観点から一般の化学合成においてマイクロケミストリーが提唱され、いくつかのマイクロ化学システムが考案されています。放射性診断薬剤はその物質量が極めて少ないことが特徴の一つであり 、PET薬剤合成においても同様なアプローチが可能であると期待できます。本研究室では、このような観点からPET薬剤のミニチュア合成装置合成を開発を進め、反応スケールで小さくすることで生じる諸問題をテーマとして研究を行っています。
[11C]メチルタイロシン合成用のミニチュアモジュール |
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| 3. | 生体機能分子の体内動態の解明と医学診断利用 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 新たに合成されるPET核種標識化合物は、生体内での動態、特に目的とする臓器や部位への取り込みについて調べ、その診断薬としての有用性を評価する必要があります。診断薬剤として望ましい特質とは、人体に投与後目的(病変)部位に特異的に集積するとともに、他の部位からは迅速に消失することです。しかしながら、実際には、非特異的な取り込みや生体内で受ける代謝により、複雑な挙動を示します。望ましい薬剤をデザインするには、これらの生体分布のデータのフィードバックが不可欠であり、当センター核医学研究部と医学系研究科の関連研究室と連携して共同研究を進めています。 動物を用いる動態解析の手法としては、小動物専用のPET(マイクロPET)が現在最も進んだ方法ですが、残念ながら当研究施設には設置されていません。そこで、様々な手法を用いて動態解析を行っています新たに合成されるPET核種標識化合物は、生体内での動態、特に目的とする臓器や部位への取り込みについて調べ、その診断薬としての有用性を評価する必要があります。診断薬剤として望ましい特質とは、人体に投与後目的(病変)部位に特異的に集積するとともに、他の部位からは迅速に消失することです。しかしながら、実際には、非特異的な取り込みや生体内で受ける代謝により、複雑な挙動を示します。望ましい薬剤をデザインするには、これらの生体分布のデータのフィードバックが不可欠であり、当センター核医学研究部と医学系研究科の関連研究室と連携して共同研究を進めています。 |
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| A) | 体内分布、脳内分布の解析、代謝物の解析
得られた新規PET核種標識化合物の体内・脳内分布を調べるため、マウス、ラットを用いて分布を調べます。標識化合物を尾静脈(場合によっては腹腔、経口)より投与し、一定時間経過後、目的とする臓器や移植した腫瘍を摘出し、その放射能量を測定します。結果として、目的部位への分布量がパーセントで示すことができ、これらの値から特異的な集積か否かを解析することができます。摘出する時間を変えることによってある臓器に対する標識化合物の経時的変化を解析することも可能です。このようにして新規化合物の動態を解析し、有用性を評価します。 また、HPLCを用いて代謝分析を行い、上記の分布が化合物由来のものか、代謝物なのかも併せて評価します。 |
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B)
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オートラジオグラフィ法を用いた解析
上記の方法では目的とする臓器を全部、もしくは一部分のみ取り出し、放射能量を測定するため、臓器内に偏って分布したか否かを解析することは不可能です。そこで、臓器内への分布を明確に解析する目的でオートラジオグラフィ法が用いられます。この方法は脳や全身を薄くスライスし、切片を作成します。この切片をX線フィルムに密着させ、そのフィルムを現像することによって組織内の分布が画像で得られるものです。最近ではX線フィルムの代わりにコンピューターで解析できる蛍光スクリーンが開発され、フィルムに比べて高感度かつ定量性に優れているため、X線フィルムはほとんど使われなくなっています。オートラジオグラフィ法は大きく分けると、初めに切片を作成し、緩衝液中で新規標識化合物を添加し、その分布を解析するin vitroオートラジオグラフィ法、マウスもしくはラットの尾静脈より新規化合物を投与し、一定時間後に切片を作成するex vivoオートラジオグラフィ法の二つの方法があります。特に後者の場合、ポジトロンを用いていることから非常に迅速な切片作製が要求されます。オートラジオグラフィによって得られた画像はコンピューターで解析します。 |
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[11C]donepezilを用いたin vitro autoradiography法 アセチルコリンエステラーゼが大量に存在する線条体への高い取り込みが観察される。 |
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| C) | Dynamic positron autoradiography法を用いた解析
近年、生きた脳切片と蛍光スクリーンを用いたdynamic positron autoradiography法が確立され、放射性PET薬剤の新しい評価法として応用されており、当施設でもこの方法を用いて新規放射性化合物の動態を検討しています。この方法は脳切片を生きたままの状態で作製し、培養液中で培養しながら(つまり、切片が生きたままの状態で)新規化合物の分布を解析できるものです。この方法はin vitro autoradiography法、ex vivo autoradiography法とは異なり、 (1)脳切片が生きているので神経活動が保たれていること、 (2)同じ脳切片で放射性薬剤の経時的な取り込みの変化を観察することができる、 という特徴があります。 この手法を用いることによって、内在性の神経伝達物質との競合作用や、拮抗剤を添加することによる競合作用を容易に観察することが出来ます。このようにして新規化合物の特性を調べています。 |
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Dynamic positron autoradiography法の原理 蛍光スクリーンはβ+線のみ検出し、バックグラウンドから発生する多量のγ線に対しては感度が低い。そのため、培養液中に多量の放射性薬剤がある状態でも切片に集積した放射性薬剤の分布を選択的にイメージングすることが可能になる。 |
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